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2019年3月29日金曜日

梅と共に逝く

梅の花が庭先で咲き、それが散る頃その主【あるじ】は一人ひっそりと亡くなった。
主はずっと一人暮らしで、最近は持病を悪化させていた。
聞くところによると、電話、電気、水道も止められており、近くのコンビニが命綱だったようだ。
主は決して、借りていた家の中に人を入れることが無かったので、民生委員の人やお巡りさん以外は様子を知る人が無かった。
ただ、家の前には梅などの木々や花が植えてあり、一人で世話をして楽しんでいる様子を見ることが多かった。
亡くなった後入ってみると、家の中はゴミの山で、足の踏み場もなかったという。
たぶん、ゴミ袋を買う余裕も無かったのだろう。

主は元々は、クリーニングを営んでいたのだが、廃業して以来いろいろな仕事を転々として暮らしていた。
生活保護を受けるのを拒んで、貯金を頼りにしていたようだ。
それでも、数度は生活保護も受けたという。
年金の手続きをせずに、多額残された形になっていたそうだ。
要するに、主は自分が直接貯めていたお金だけで暮らそうとしていたようだ。
ただ、病気を患ってからは、民生委員の人にお世話になっていた。
それでも、時々歩く姿を見かけることがあった。
若い頃は自転車の選手もしたというスポーツマンだったが、自転車を盗まれてからは歩くことが多かった。
以前は健康のために、駅まで往復12kmを歩くのを日課にしていたこともある。

私は主とは話をする機会は何度もあったが、苗字以外は知らなかった。
亡くなって初めて、フルネームと年齢を知った。
年齢は74歳だった。
知った人の中では、60歳前後で亡くなる人も多く、それに比べれば長生きした方に思えた。
また、身寄りが無いのかと思っていたが、近くや遠くに兄弟がいた。
今回は、その遠くの兄弟によって葬られることになった。
主は兄弟とも関わりを持たず、一人で暮らしていたが、決して孤独な様子では無かった。
周りの人とも仲良く関わっていた。
そして、無くてはならない景色の一部になっていた。
主の姿は、この景色から消えてしまったのだが、これは誰もがもつ運命と同じである。
金に不自由なくても、短命で終わる人もいるし、金が無くてもそれなりに長く生きることもできる。
主は、その一つの生き方を景色の中で、見せてくれていたのだと思う。

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