自分たちは農作業をすることを百姓すると言っていた。
父方の本家には田んぼもあって、幼い頃に父親が田植えを手伝うのについて行ったりしていた。
父は三男であり、結婚当初は鳥撫(鷏和)では借家暮らしで、夫婦と子供と雇い入れた若者とで木造船に乗って石などを運んでいた。
明石沖で遭難しかかったことをきっかけに船の仕事を辞めて造船所の職工になり、尾崎に小さな中古の家を買って移り住んだ。
父は百姓が好きだったようで、畑や田んぼを私の母方の祖母と共同で持つようになった。
田植えや稲刈りには祖母の家族(祖母も伯母も夫に先立たれていた)も手伝いに来てくれたりしたが、殆ど父が一人でやりくりしていた。
母は町育ちだったので、百姓仕事は嫌いで、たまに父に言われて手伝う程度だった。
田んぼは高校用地で1枚が売れて資金ができたので、別の田んぼを埋め立てて家を建てたので、自分が中学校の頃には無くなり畑だけになっていた。
私は長男だったので、どこに行くのにも連れて行かれたが、特に畑仕事は自転車の後ろ乗せられてついて行っていた。
だから一通りの作業は教え込まれていたが、父が昔からの経験でやるのを手伝っただけであった。
一番嫌だったのは草抜きだった。
先日も、かつて同じように畑仕事を手伝わされた四男がしぶしぶ草抜きをしていて、父に家に帰れと叱られたことがあったことを聞かされた。
四男はそういう経験もあって、近くに父から受け継いだ畑があっても、百姓は今でもしようとはしない。
自分はどちらかというと、耕したりする時に、力があることを見せて父に認めてもらいたい方だった。
4人兄弟の全員が百姓の手伝いをさせられているのだが、結局今でも続けているのは私だけである。
と言いながら、中学受験を小学校6年から始めて、大学院を出て教師になるまでは、たまにしか父の手伝いはしなかった。
私が百姓をし始めたのは、結婚後、赤穂の大津に借家住まいをして、子供ができてからである。
子供に安全で美味しい野菜を食べさせてやりたいというのが動機だった。
だから、当初から無農薬であり、そのうち化成肥料も使わず有機肥料に変えた。
雑誌の「現代農業」を定期購読し、農業書も色々読んだりもした。
30年ほど前に上郡に移り住んだのも本格的に農業をやりたかったからだった。
ところが、稲作地帯の近隣では、畑仕事は女性の片手間仕事で、畑も少なくなかなか貸してもらえなかった。
また、農業資格がとれるだけの機械や倉庫も無かったし、基盤整備した農地は高額で、農地は取得できなかった。
現在のように1反ほどの休耕田を借りて畑を作り始めたのは、10年ほど前からである。
当初は自分一人ではタマネギ一つまともに作れなかったのに、今は無農薬・有機肥料で大抵のものは作れるようになった。
特別支援学校では農作業を担当したりもした。
子供も育ち、孫もいない現在でも百姓に拘るのは、単に健康志向からだけではない。
自分達が食べるものを少しでも、自分で手に入れたいという思い入れと、作ることそのものに楽しみがあるからだ。
その楽しみとは、自分がてしおにかけた作物達が立派に育っていき、それを有り難くいただいたり、種として残してまた育てる楽しみである。
近所の人も、百姓をしている人は、作る楽しみを感じながらやっているようで、余分に作って人にあげるのも楽しみの一つだ。
中には田んぼで死ねたら本望だという人さえいる。
その一方で近所の同年代の人の多くが、若い頃に無理矢理農作業をやらされたので、今はしたくないという。
自分は幸いに学業を理由に、若い頃は逃げてこられたので、嫌にならずにすんでいるのだろうとも思う。
それは無理矢理やらされていた勉強やスポーツと同じで、好きにならないと続くものではない。
考えてみれば私は勉強もスポーツも好きなことしかやってこなかった。
だから、百姓は好きだからやっている。
たぶん、出荷して金を儲けようとしたとしたら、楽しみでは無くなって辞めていたかもしれない。
同じ村の専業農家の余裕のない働きぶりを見ていると、自分には向いてないと思う。
それじゃ単に趣味だと言われるかもしれないが、退職してからは生きがいの一つでもある。
百姓をしているときの方が体調も良く、気分がよく、研究はその合間でやる方がいい。
近所の早期退職後に本格的に農家になった人が、肺がんを克服したのも分かるような気がする。
世の中が近代化される前では、学問がすすめられた。
近代化されて疲弊している現代では、百姓をすすめるべきのように思う。
特に、退職後で年金や賃労働の収入に不安を抱えるものにとっては、百姓は収益という意味では気休めではあるが、暮らしとしては心強いものでもある。
因みに百姓は山野河海で食べられるものは、自分で何でもちゃんと手に入れたり、交換したりする。
多くの歴史学者や民俗学研究者が言うように、百姓は農作業だけしていたのではない。
私は百姓の原点に立ち戻りながら、学問も進めたいと思っている。
作物や自然の恵みに感謝しながら・・・
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