昨年はコウノトリが村の中の電信柱に巣を作って、それを電力会社が撤去する事の繰り返しが生じてしまった。
撤去だけで無く、不安定な柱の上で強風に煽られて飛び散ってしまった時も有った。
コウノトリはどちらかというと、家が密集していたところに、巣を作っていた。
それを見かねた地元の有志の方が、100万円以上の募金を集めて巣作り用の鉄塔を拵えた。
場所は少し家が密集した所から離れていたが、幹線道路から離れて、行きずりに見物する人から遠ざけるのに良い場所に思えた。
山も近くにあって、小枝を集めるのにも問題は無い。
ただ、餌を付近で探している姿は、私はあまり見かけていなかった。
また、近くには幹線道路に続く抜け道があって、村以外の車両も多く通っていた。
ところが、何週間か前から、私が普段クロと散歩する道の電信柱の上で、コウノトリのつがいが交尾するのを見かけていた。
そこは、人家から少し離れた、車もそこそこ行き交う道路の路肩であった。
この道路は地元の人以外は通ることが殆ど無いし、散歩で歩いている人もあまり見かけなかった。
私も散歩の折には、手前の三叉路で川端の農道に曲がって、電信柱の下は通らないようにしていた。
ここは、餌場となる水田が近くに広がっているし、巣の材料となる小枝も近くに山があるのでとって来るのに便利なところだった。
しばらくすると、そこには大きな巣ができていた。
コウノトリは地元の有志が準備した巣作り用の鉄塔ではなくて、やはり普通の電信柱に巣を作ってしまった。
巣作り用の鉄塔をコウノトリが知らなかったわけではなくて、そこに停まっているも見かけられている。
要するに、こちらの方が餌を捕るのに便利で、子育てに適していると思ったらしい。
そもそも、電信柱が好まれるのは電線が3本繋がっていて、そこに枝を渡して巣を組みたてやすいからのようだ。
だから、巣作り用の鉄塔には枝を乗せやすい籠がもうけられていたのだが、気に入らなかったらしい。
それは、あたかも自分たちの愛の棲は、人の思うようにはさせないという意思表示にも思えた。
去年から何度も何度も壊されたり、壊れ続けた愛の棲。
その困難を乗り越えて今年も自分たちの愛の棲を作り続けている。
また、電力会社はその巣を取り除いてしまうかもしれない。
このままでは、いつまで経っても雛が誕生できないままだろう。
やがて、巣作り用の鉄塔が一番安全だと気がついてくれるかもしれない。
喙に大きな木の枝を加えて、自分の巣に運んでいるコウノトリをみると、哀れにも思えるが。
単に生きることだけのために、餌を探し回っている姿よりも、よほど美しい姿に思える。
自分たちの愛の証を残すために、けなげに空に舞うコウノトリをじっと見守るほか手立ては無いようだ。
その姿はかつて自分が恋愛に生きた時代を、ほろ苦く思い出させてくれている。
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