私の父親は赤穂の鳥撫(鷆和の一集落)出身で、親戚がそこには多い。父親は転職して会社勤めになり、住居もそこから遠く尾崎になった。
父親の兄弟は鳥撫に二人、妹が嫁いで加里屋にいる。ただ一人だけ遠く名古屋に叔父家族が住んでいる。
今回、その叔父が糖尿病が災いして足を切断せねばならなくなった。精神的に本人やその連れ合いの叔母も参ってしまい、赤穂の兄弟などを頼った。
そこで、親戚が手術前に出かけていって励ましてきたが、その時に都合が悪くて行けなかった私の方の妻子と母親、名古屋に住む弟が手術後に見舞いに行った。
叔父は遠くやって来てくれた親戚に励まされたのか、元気にリハビリに努めている。私たちには悲観した様子は見せなかった。
もともと私は鳥撫に生まれだったが、尾崎に引っ越した後も盆正月以外に、従兄弟や叔母のいる鳥撫の本家にはよく泊まりに行った。
小さい頃は、盆正月に鳥撫の本家に父親の兄弟姉妹が集まって賑やかにするのが、何よりも楽しみだった。
それが、中学生頃からどんどん足が遠のいていった。大人と子どもを区別する食事で、子ども扱いされるのがどうも嫌になったからだ。
成人すると葬式や法事以外の付き合いは殆ど無くなった。
今回名古屋まで叔父を見舞いに行ったのは、父親が亡くなって母親を連れて行かねばならなかったこともあるが、私自身が叔父に世話になったことからである。
都会に親戚があまりない私が大学に進む時に、名古屋の大学を選んだのは叔父がいたからである。進学してしばらくは叔父の借りているアパートを間借りして、近くの叔母のする喫茶店で食事をさせて貰った。
別のアパートに下宿してからは、叔父家族とは疎遠になり、東京の大学院に進学してからは殆ど名古屋の叔父を訪ねることはなかった。
それでも、私は叔父を頼って関わりを持った方で、もう一人の鳥撫の叔父の息子は、同じ名古屋の大学に進学しながら、一度も訪ねることはなかった。
私の弟も4年前に名古屋に単身赴任しながら、一度も訪ねていないと言うことなので、見舞いが良い機会として訪ねることになった。
どちらかというと、田舎育ちで社交下手の叔父は、家と職場を往復するまじめなサラリーマンで、趣味もゴルフ程度だった。
故郷の赤穂には元気な頃には毎年盆と正月には必ず帰省して、以前は退職後は赤穂に戻りたいと言っていた。
叔母は東京や名古屋の都会育ちだったし、子どもも名古屋で仕事して、家庭を築いていたので、叔父だけが赤穂に戻るということはできなかった。
肉親と呼べる人は家族以外に近くにいなくて、赤穂に年に戻ってくるのが楽しみだったが、退職後は患った糖尿病が元で透析を3日に一度する必要があり、赤穂に長くは滞在できなくなった。
子どもが独立して二人暮らしになった叔父夫婦だが、子どもは叔父夫婦をよく見舞っている。特に看護師をしている娘はそうである。それでも、遠く赤穂の親戚を頼ったのは、叔父には何よりも赤穂の「肉親の情」が必要だったのだろう。
私の父親は名古屋の叔父が赤穂に戻りたいといった時に、現実は難しいと言って突き放した言い方をしていた。確かに現実はそうだった。
それでも、無理して赤穂に戻ってきていたら、これほど糖尿病はひどくなっていなかったようにも思う。
赤穂市に住む叔父の兄弟は盆正月や法事以外は、それ程飲食を共にしなかったが、畠仕事を共通に持っていていた。それぞれが競い合って、薩摩芋やら野菜を作って互いに自慢し合って、配り合っていた。
同じ糖尿病の鳥撫の叔父は、毎朝鳥撫から大津まで往復10km近くを歩いて糖尿病を克服している。
そういう健康的な生活をしていたら、これほど重篤な状況には陥らなかったように思う。
私にも神奈川県の都会に住む弟がいる。私は家を建てる土地もあるから戻ってきたらと奨める。
関東の地震が心配なこともあるし、病気をよくしていて、現在も難病を患っていながら、仕事を頑張っている。
弟の連れ合いが地元育ちと言うこともあるし、仕事のない赤穂に本人は絶対戻らないという。父親の葬式や法事以外には、盆正月でさえ戻ってこない。
弟はどんなに重篤な状況になっても、こちらの親兄弟を頼らなかった。これからもそうだろう。
エリートコースを進む弟は、保険や蓄えがあるので、病気や老後の心配は無いという気があるようだ。
父親の世代は高い教育も受けさせて貰えなかったが、支え合って家業をやったり、別の職についても互いに関係を持ち続けた。
我々の世代は高い教育を受けさせて貰い、安定な職に就きながら、ばらばらの生活を送っている。地元に戻った私ら兄弟(男4人兄弟もうちの二人)の間とてもそうである。
無縁化社会は都会に限ったことではない。田舎に住んでいても、関わりを絶ってしまった親子や親戚の話はよくある。
どちらかというと、煩わしいと思った親戚関係も、年老いた親の兄弟の支え合う姿を見ると、もう一度見なおす必要を感じるようになった。
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