私の住んでいる村は、農村で暮らしたことの無い人が移り住むことは、転入というよりも移住に近い。
そもそも、私たち家族が村に引っ越してくる時は、村入り費用として多額の支払いを行った。
それによって、村における権利を得ることにになるのだが、この制度はさすがに最近は一部廃止して減額されている。
また、自治会に属すつもりの無い人は支払いを拒否して、まるで別荘に住んでいるかのように暮らしている。
また、途中で自治会に不満を持った家族は脱会して、一切の付き合いをしていない。
そこまで、孤立しながら住み続ける人もいるが、たいがいは途中で転出してしまう。
そういう家屋敷は価格が安くなるので、自治会を無視し、モラルを欠いた家族が住み着いてしまった。
私たちの家族が何とか村の人とやって行けているのは、それなりの経験があったからだ。
結婚当初は赤穂のとある地区の親戚の空き家を借りて住んでいた。
そこはそれまで住んでいた赤穂の地域とは違って、農村の古い習慣を維持したところだった。
今住んでいる村ほどでは無いが、村作業や葬式などで役割を果たすのが当たり前だった。
私がその地区から早く出たいと思ったのは、村作業後の飲む席で、私が借りている家の庭の草を抜けと年上の人から説教されたことからだ。
隣に住んでいる親戚の大家さんではなくて、あたかも代わりに叱ってやっているとばかりに、高圧的に言われた。
確かに、庭に草を生やしているのはみっともないかもしれないが、他人に説教されるいわれはないと腹立たしく思ったが、言い返せなかった。
そのこともあって、借家しているから自由にできないと思い、今の村に家を建てて住むことにしたのだ。
今の上郡の村の家屋敷は、赤穂の時よりももっと草木を生やして、手入れできていないが人からとやかく言われることは無い。
近所の人は綺麗に庭を手入れしているのを見ると、後ろめたく思うがうちはうちだと割り切っている。
その代わりに、村の仕事や役員もしっかりと務めた。
むしろ、元々地元の人がしていない祭りなどの世話役さえやった。
だけど、毎月行われる寄り合いには隣保長になった時を除いて殆ど行っていない。
最初は集会所での喫煙を理由にしていたが、禁煙となった今も理由なしで欠席している。
そもそも、毎月話し合う必要性を感じていないからだ。
今の村に移り住んで30年以上経ち、若い頃から自治会の仕事をしていたので、もはや古株の域に達している。
というのも、私と同じ世代の跡取り達は親が死んだり引退して自治会の仕事をし出したので、私の方が経験が長いのだ。
街から移り住む人が一番嫌がるのは村作業だ。
参加しないと以前は出不足金が課せられた。
毎年、村に自治会費を年間1万円余り払った上に、毎月のように作業がある。
これは古来からの賦役のながれだと思う。
だから、こういう村で住む人はこういう作業参加の覚悟が必要なのだ。
今風で言えばボランティアを強制的にやらされていると思っても良いかもしれない。
ただし、村の幹部役員は幾分かの報酬を貰っているが、決して割には合わない。
テレビやネットで移住の失敗例を見て、そこあたりの調整がうまく行っていないのだろうと思った。
最初から村作業を説明して募集するのか、移住者は完全に別格として扱うかを決めておくべきだろう。
そして、借家の立場はそれなりの扱いや干渉を受けるということも説明しておくべきだろう。
全て金で動く時代に村作業や祭りなどの行事、自治会役員の仕事をボランティアで行うのは時代遅れになっているとも思う。
ただ、地方の村はそういう人と人との助け合いが重要であり、魅力であって、それを通して私たちのようなよそ者でも仲良くやっていけたのだ。