人新世は地質学用語でありながら、正式な地質時代とは認められていない。
ただ、広く用いられているのは、産業革命以降ということだろう。
[ É,アリエズ&M,ラッツァラート2019(2016)]は次のように述べている*1
南極北極の氷山の分析から、科学者たちはこの時期に大気中の二酸化炭素量が異常に低いレベルにあったことを測定することができた。(中略)それはアメリカ先住民に対しヨーロッパ植民地勢力が行なったジェノサイドの大きさを客観的に数値化しているからである。大陸現地人の人口が五五〇〇万人から六〇〇万人に低下し、地球人口の五分の一が消滅した。世界史で最大の人口学的破局はそれに引き続いて大陸の再森林化を引き起こし、二酸化炭素の貯蔵量を増大させることになり、気象学者はその炭素量値を最低値に設定して、それを基準に恒常的な上昇を計測することができるほどの規模だった。この仮説によれば、人新世は一四九二年、アメリカの先住民にとっての世界の終わりであるこの年から始まることになる。人新世は殺新世である[前掲書:369]。
現在は二酸化炭素の数値が高まることと人新世を関連させているが、人間の生活が地球に影響を大きく及ぼしたと言うことでは、逆に数値を低めたことも人新世と言える。
ネットのAIで調べれば、15世紀末から16世紀にアメリカ大陸全体の人口の約90%が激減したが、歴史学者はそれを「大いなる死(The Great Dying)」と読んでいるそうだ。
人口減少の主な原因は①疫病の蔓延②征服戦争と虐殺③強制労働と社会崩壊となっているが、①の原因が一番関わっていたと広く言われている。
疫病はヨーロッパ人が持ち込んだもので、ある意味では生物兵器ともとれ、②を含めてジェノサイド と捉えて良いだろう。
そして、二番目の人新世への転機は広く言われている産業革命だが、むしろÉ,アリエズ&M,ラッツァラートは原爆投下を重要視して次のように述べている。
さらにほかにも―最大多数が―人新世を一九四五年に始まるものとしている。その理由は、放射能というシグナルであり、それが物語っていることも明瞭だからだ。マンハッタン計画という名のもとに日本に投下された二発の原爆、そしてその直後から続く多数の核実験は、最初期の「爆発的加速」の沈殿物として固定される。しかし、栄光の三〇年、西ヨーロッパの石油化と「原子力の平和利用」の前景化を推進する前に、二度の総力戦の生産的・破壊的加速があった。人新世は軍民共用の死新世なのである[前掲書:370]。
人新世を殺新世とか死新世と見なすにしろ、アメリカが大きく関わっていることが分かる。
ヨーロッパ人がアメリカ大陸を植民地にするのに一番の有効だった武器は、軍事革命によってヨーロッパが優位となった大砲と火縄銃だった。
結果的には人感染という生物兵器で滅ぼすことになったのだが、それを可能にしたのは軍事力であった。
そして、核兵器こそ最大の軍事革命と言われており、アメリカは軍事革命によって人新世の到来をもたらしたとも言える。
アメリカは産軍学複合体で世界の覇者となり、これからのITやAIを用いた軍事力でも最強の地位を維持している。
しかし、経済分野では金融戦争には勝利しながらも、工業戦争、貿易戦争では敗戦を余儀なくされ、軍事力で脅しながら威信を保とうとしている。
金融戦争に関してはイスラーム経済が脅威となり、工業・貿易戦争では中国が脅威となっている。
そして、人新世の一番の重要な戦争はエコロジー戦争だが、これは互いに攻撃し合い、それに対して内向きに防衛しなくてはならない。
アメリカは自然災害に関しても兵力を持って対処し、災害を利用しながら社会を改変しようともしているようだ。
しかし、イランに仕掛けた流血戦争でエネルギー問題が深刻化し、推し進めている生成AI推進事業では水不足が深刻化しているという。
日本も千葉の水害はエコロジー戦争の敗北であり、昨年から続く米問題でも敗北続きとなっている。
中国も水力発電において大きなリスクを抱えていることが表面化して、決してエコロジー戦争を有利に戦っているわけではない。
皮肉なもので一番エコロジー戦争で苦しんでいたはずの北朝鮮が、ロシアの流血戦争でGDPを成長させて豊かになっている。
本格的なエコロジー戦争は始まったばかりなので、アメリカがいつまで強気の姿勢を維持できるか分からないと思う。
熱波での災害に窮したヨーロッパはこのエコロジー戦争を深刻に受け止めているのに、日米ではそうではないのが致命的のように感じてしまう。
結果的に人新世は死新世となってしまうのかもしれない。
*1 É,アリエズ&M,ラッツァラート 杉村昌昭、信友建志訳 2019 『戦争と資本―統合された世界資本主義とグローバルな内戦』 作品社 [ É,アリエズ&M,ラッツァラート2019(2016)]