このところ、金谷啓之氏の著『睡眠の起源』(2024年 講談社)を読んでいて、色々考えさせられているだけでなく、救われてもいる。
以前書いた「一途な夢を壊してしまった睡眠不足」で書いたように、私は長年の後悔を睡眠の重大さを知ることによって和らげることが出来た。
睡眠を調べ始めたのは、「ヒト本来の分割睡眠」で書いたように、日常の睡眠のあり方に対する不安からだった。
それが今の不安だけで無く、過去から引きずってきた悩みも幾分解決してくれた。
本を読むことの良いことは、意図しない発見や解決が見つかることだと改めて思った。
今話題の柳沢正史氏の研究は、医学的に睡眠を解明するのが目的で、睡眠覚醒制御の神経伝達物質「オレキシン」を発見し、健康に良い睡眠のあり方を教えてもらうことは参考になる。
しかし、現代生活は産業化社会の文明によって歪められており、それに適応できる睡眠を考えることと、生物としての人間が本来適した睡眠とは何かを考えるのとは目的が違う。
今の自分のように時間に縛られた賃労働から解放されている者にとって、生き物にとっての睡眠の意味を理解し、本来の睡眠を得たいと思っているので、金谷氏の研究の方が役に参考になる。
例えばオレキシンは脳に関連るものだが、睡眠は単に脳とだけ関係するものではないという。
「第六章 眠りの起源は何か」の”腸が眠くなる?”という節に、睡眠と筋肉や腸との関係が次のように述べてある。
睡眠は、必ずしも脳によって制御されているわけではなく、末梢組織でも調節され得る[前掲書 144頁]。
睡眠は健康にとって大切なことだが、それが運動と結びついたり食事と結びつく理由がこのことからよく分かる。
睡眠は心と身体を結びつける大切なものだと改めて知るのだが、昔ジャパニーズビジネスマンが「24時間戦えますか」と栄養剤のCMで鼓舞されていたのが愚かに感じられる。
むしろ、化粧品のCMで「女は夜作られる」といわれて、夜の肌のお手入れだけで無く、睡眠が重要だということの方がためになったのだ。
金谷啓之氏は睡眠に関して次のように結んでいる。
睡眠とは何か―それは、起きている間に蓄積したものを解消する行為、なのだろう[前掲書 177頁]。
思い起こせば幼い頃に、泣きじゃくって眠ってしまい、目を覚ますとその悲しみを忘れて元気になっていたことを思い出す。
赤ん坊は眠くなると泣いて母親に知らせて、母親はそれを分かっていて寝かしつけてあげる。
オレキシンは睡眠ではなく、泣く行為そのものに関わっており、それの対抗として睡眠が催されるそうだ。
河島英五の歌「酒と泪と男と女」にあるように、大人になっても男は飲んで眠り、女は泣いて眠って「忘れてしまいたいこと」「どうしようもない寂しさ」を癒やす。
オレキシンは泣く行為同様に飲酒とも大きく関わっているというから、この歌は男女によってオレキシンとの関わりの違いを上手く表現している。
とにかく、大切なのは泣いたり、飲んだりすることではなく、睡眠そのものになるのだから、睡眠を確保する手段を考えねばならない。
飲酒が睡眠の質を下げるとしても、ストレスで眠れない方が深刻で情緒に問題が生じたりする。
飲むことが体質的に無理であったり、病気が原因でできない人、ストレスなどで眠れない時は酒よりも睡眠導入剤の方が適しているように思える。
実は私も寮の宿直の時は酒が飲めないので睡眠導入剤を飲んでいたし、最近でも糖尿病の数値が悪いときは寝酒の代わりに飲んでいる。
その場合、錠剤を割って少量にして寝覚めをよくする工夫をしてきた。
運動や食事に気を遣う余裕がない人は、サプリや薬を使うしかないだろうと思う。
日本人は世界で一番睡眠時間が少ないと言われている。
ということは、蓄積された心身の疲労を解消する時間が一番短いと言うことであり、それでは心身の健康が保てない。
睡眠を充分に確保することこそ、これからの日本人を救う方法だと思う。