私は現在の睡眠の取り方に不安を感じたことがきっかけとなって、睡眠に関することをネットや文献で調べている。
そのことは「ヒト本来の分割睡眠」に詳しく書いたのであるが、文献を読んでいるうちに睡眠不足が深刻な心身に悪影響を及ぼすことを知った。
今の私は決して睡眠不足では無いのだが、かつては睡眠不足を何度も経験していた。
よく憶えているのは、小学校6年の中学受験で午前2時近くまで受験勉強をして眠ろうとしても眠られず、母親に言うと薬用酒を飲ませてくれてやっと眠れたことだ。
それを何度か繰り返していたが、中学受験はその甲斐あって合格できて、普通に眠られるようになったが、その不眠症になった辛さは忘れられなかった。
そして、今になって気がついたのは、大学院の修士論文で1ヶ月以上睡眠不足が続き、提出前の一週間以上はまともに眠られていなかったことだ。
同じようなことを同期の仲間もしていて、彼は良い修士論文に仕上がったが、私は不十分な論文で周りからはもう一年かけて書き直した方が良いと言われた。
その時は、今から思うと論文が上手く仕上がらなかったことの辛さもあったが、その睡眠不足の影響で情緒が不安定になってしまっていたようだ。
ネットでは「睡眠不足が続くと、気分の落ち込み、イライラ、集中力低下、判断力の低下などが現れやすくなります。*1」とある。
私がそれまで支えてくれていた伴侶にやり場のない感情をぶつけてしまって、それが原因で関係がこじれて別れてしまった、
その原因は、論文作成失敗よりも、睡眠不足による精神障害ほうが最大の原因だったようだ。
結局、別れ間際から不眠が続き、伴侶は去って行ってから精神科にかかり精神安定剤を飲んで何とか眠られるようになった。
医師の診断はノイローゼということだった。
論文作成当時の自分は睡眠などしている場合では無いと必死でに取り組んで、まともに書けない時は死にたいとまで思った。
同じように論文を書いていた仲間も、書けないのが辛くて苦し紛れにタオルで自分の首を絞めたとも言っていた。
しかし、彼は良い論文に仕上がり、博士課程への進学が保証され、自分はもう一年といわれてチャンスは残っていても、精神的に耐えきれない状態になっていた。
多くの大学院修士の院生は似た経験することだとは思うが、知っている先輩には持病に気管支喘息を抱えていて無理が出来ないと、こつこつと地道に書き上げた人もいた。
私も既に十二指腸潰瘍を抱えていたので無理は出来なかったのに、教官から修士だけと言われていたことを挽回しようと無茶をしてしまった。
それが、博士への進学だけならともかく、大切な人まで失うことになってしまった。
その原因を自分の思慮の浅はかさと自分を納得させていたのだが、睡眠不足がそれ以上に重大な原因であったことに今更知ることになった。
これは睡眠の重要性と睡眠不足の怖さを知っていなかった報いである。
時に若い時は何日も徹夜して勉強や研究をしたり、仕事などをしたことを自慢げに言うことがある。
以前、高校によっては勉強合宿を1年生にするおり、徹夜で勉強をする体験をさせたりもしていた。
そういう徹夜が良い結果に結びついた時には自慢話になるが、果たして本当に心身の健康に影響がなかったかどうか分からない。
今読んでいる金谷啓之氏の著『睡眠の起源』(2024年 講談社)に科学コンテストに応募のために断眠した高校生ランディに関して次のようなことが書いてある。
ランディはそのまま耐え続け、なんと年が明けた一九六四年一月八日までの一一日間、時間にして二六四時間の断眠記録を達成したのである。当時としては、最長の断眠記録だった。
(中略)論文に記載されている内容はそこまでだ。だが、この話には続きがある。実験から四〇年以上経ってインタビューに応じた彼は、後年、深刻な不眠症になったことを明かした。毎晩眠ることができず、「もう眠ることを諦めた」と語っている。
これは極端な例だが、実は私は修論を書いていた1週間ほど、布団の上で眠っていなかった。
だけど、机の上でペンを走らせていると思っていたのだが、いつの間にか数時間経っていたのを憶えている。
私の場合は人に助けてもらいながら断眠に挑戦していたわけではないので、結局は数時間ほどは毎日眠っていたようだが、睡眠不足には違いなかった。
ただ、その後に不眠症になったことは共通している。
今だから言えることは、どんなに失敗して辛いことがあったとしても、しっかり眠っていたなら、心機一転やり直すことが出来たはずだと言うことだ。
それまで抱いていた二人の一途な夢を失わせてしまった大きな原因が、睡眠不足にあったとは、今更取り返しのつかない哀れな話だと悔やまれてならない。
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