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2026年11月5日木曜日

現代社会が作り出した自閉スペクトラム

 私は正教諭であった30年間の中で、特別支援学校での障害教育に11年間携わってきた。

また、普通高校でも障害を抱えた生徒も受け入れており、特に定時制では率としては多かったと思う。

障害教育のうち4年間は肢体不自由の特別支援学校だったが、知的障害や精神障害を抱えた児童生徒が在籍していた。

特別支援学校では障害に対する研修が多く行われてきたのだが、自分自身しっかりと学んだといえる自信は無い。

そもそも、研究者になりたくてもなれずに、教師にしかなれなかった「でもしか」教師でしか無かった。

障害教育に精通して骨を埋める気持ちは持っていなかったが、初任校は強制的に、二校目はやむを得ず、三校目は自ら望んで赴任することになった。

しかし、現実は身近に障害を抱えた人がいて、ずっと関わり続けることになったのだが、真剣に専門書を読んで学ぼうとはしていなかった。


ところが、最近認知科学に興味を持って、手にした本が次の本だった。

エリック・R・カンデル 大岩(須田)ゆり訳 2024 『脳科学で解く心の病―うつ病・認知症・依存症から芸術と創造性まで』 築地書館THE DISORDERED MIND(2018)[エリック・R・カンデル2024(2018)]


この2章は「人類のもっ強力な社会性―自閉スペクトラム症」であり、それを読んで自分がいかにこの障害に対して無理解であったかを思い知った。

その無理解がどういう意味を持つかは、後に読んだ高木美歩   『開かれる自閉―医者・心理学者・当事者のポリフォニー―』(2025    晃洋書房)で思い知ることになる。

その「まえがき」でその障害をもつ著者の高木さんが訴えている言葉に涙が溢れてきた。


しかも,話はそこで終わらなかった.そこにいた先生に誘われて打ち上げに参加させていただいた.楽しい時間を過ごしたが,終わりがけにふと「研究が中絶を奨励するって,どうなんでしょう.できるだけ中絶しなくていい社会を考える方がいいんじゃないでしょうか」と口にしたら,目の前に座っていたおそらく研究員の男性が「それは家族の苦しみを知らないからそう言えるんだ!」とお酒の入った赤い顔で言った.その瞬間,わたしの胸がまたいっぱいになった.わたしも自閉症なのに.きちんとした格好をして少し専門的な話を聞くことができるし,話すことができるけど,わたしも自閉症なのに! 目の前に座っている人は多分身内に障害がある人がいて,何かしら苦しんでいるのが伝わってきた,傷ついた気持ちと,自閉症のせいで誰かを苦しめているのかもしれないという罪悪感で何も言えなかった.自閉症は生まれてこないことを望まれるほどのことなんだと思うと,恐ろしかった.父の迎えの車に乗って泣いた[前掲書:ⅲ].


自閉症という言葉は使われなくなり、自閉スペクトラム症と言われるのだが、その障害の重さがかなり違っている。

軽くて特別な知的能力をもつ人は以前はアスペルガーと言われていた。

そういう人の中にはノーベル賞をもらう人までいたのだが、高木さんは企業に就職は難しくても研究は立派に出来る能力を持っている。

就職できている人の中にも、人間関係が苦手だったり、自分がどういう立場なのかを認識できてない人もいる。

自分自身も、教師だから何とか長年続けられたのだと思っている。

10人まで位のグループでは何とかやっていけるが、大勢になると周りに合わせることが苦手であった。

だから、少人数の障害教育や人数の少なくしたクラスの担任や授業は何とか勤められた。

ただ、教壇に立ったり、バンド演奏でステージに立って大人数と接することはむしろ好きになっていた。

高校時代の同級生に大学院で研究していると言ったら、私が人と合わせられない性格なのでその道しか無いと思っていたと言われた。

おそらく性格としては私は研究者の方が合っていたかもしれないが、語学力などの実力が伴っていなかった。

なんとか仕事が続けられる場合は「性格」とされるが、仕事が続けられない場合は「障害」とされるだけのことである。


重度の自閉スペクトラム症になると、言葉が話せなかったり、上手く会話が出来なくなるし、知的障害を伴うことも多い。

確かに、そういう子どもをもつ親の困難さを特別支援学校では多く見てきた。

親が生きていて元気なうちは何とかなるのだが、その後が心配だと誰もが言っていた。

親でも持て余すこともある子どもを兄弟や親戚に任せることなど出来ない。

だから、施設を頼るしか無いというのも十分理解できた。

妊娠時の検査で障害が分かれば中絶するということも理解できるが、関連する遺伝子が分かっていても現実的には今の医学では特定は不可能だという。

そうなると、結婚相手に自閉スペクトラム症に関する遺伝子があるかどうかを見極めてからの結婚ということになるだろう。


しかし、そんな単純では無いことは、エリック・R・カンデルの本を読めば分かる。

コピー数の変異は、染色体上にある遺伝子数を二〇~三〇減らしたり増やしたりする。いずれの場合も自閉スペクトラム症のリスクが高まる[エリック・R・カンデル2024(2018):65]。

そして、一番気がかりとなるのは「デノボ(新生)変異」でこれは、「子どもがもつ突然変異のすべてが親のゲノムに存在するわけではないとわかった。成人男性の精子内で自然に突然変異が生じることがある[前掲書:68]」という。

デノボ変異の数は父親の年齢とともに増加することもわかり、年齢の高い父親ほど精子にデノボ変異が多いため、結果として自閉スペクトラム症の発症リスクを高める変異を子どもにも伝えやすい傾向がある[前掲書:69-70]。

そして、次のことは非常に重要である


自閉スペクトラム症の成人は、非自閉スペクトラム症の人に比べると子どもをもつ可能性が低いにもかかわらず、毎年、自閉スペクトラム症と診断される子どもの数は減っていない。非自閉スペクトラム症の父親の精子におけるデノボ変異が、自閉スペクトラム症の発症が持続している一因なのかもしれない[前掲書:71]」。


つまり、現代社会の結婚年齢の高齢化が続く限り、自閉スペクトラム症の起こる率は増え続けることになる。

現代社会では高学歴が求められるようになり、理系では大学院に進学するのが当たり前にさえなっている。

AIの活用で、中途半端な学歴では通用できなくなっているから、大学院への進学は増えていくだろう。

かつては若年層の結婚出産が問題にされていたが、高学歴者の結婚出産も大きな問題を抱えていることが分かると思う。

今の若い世代が不安を抱えず若いうちに結婚出産できる環境を整えない限り、自閉スペクトラム症の不安を感じる人は出産を敬遠するだろう。

そして、軽い自閉スペクトラム症なら、その人にあった仕事の形態で勤められる環境を整えるべきだと思う。

それには自閉スペクトラム症にたいするしっかりとした理解が必要だろう。

何年も障害教育に携わっていながら、今頃になって理解するのも哀しいことだが・・・・・・


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