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2025年11月26日水曜日

「狂ったサル」の自覚

 学生の頃から読もうと思いながら、ずっと読みそびれていた。

それが、アルバート・セント=ジェルジ著の『狂ったサル』國弘正雄訳 1985(1971)The Crazy Ape and what Next? サイマル出版であった。

このノーベル医学生理学賞受賞の生化学者アルバート・セント=ジェルジ博士に関しては訳者である國弘正雄がまえがきで詳しく述べてくれている。


セント=ジェルジ博士は研究活動だけに専念する科学者ではない。自分から政治に入っていったことはないが、政治の方が自分の人生に入りこんできたといわれる博士は、ファシズムに抗して地下抵抗運動に加わってヒットラーの秘密警察に追われ、解放後はソ連軍の残虐な行為をやめるようスターリンに直言して不興をこうむり、アメリカへの亡命にさいしては親ソ派とみられ、しばらくは入国を拒否されるなど、多事多難な生涯をおくってこられた。一たびはナチ滅亡後のハンガリーの大統領に推されたこともあった。

 しかも博士は一貫して平和主義の立場をとってこられた。第一次大戦時、イタリア戦線に従軍中、なんの恨みも怨念もない「敵兵」を殺戮することの没道義性と愚かしさに耐えきれずに、われとわが右腕を撃って処罰された。また負傷がなおってイタリア戦線に送られた時、イタリア人捕虜に危険な生体実験をせよという命令を拒否して、マラリアのはびこる北イタリアの沼地に追いやられるということもあった。[前掲書 3p]


セント=ジェルジ博士は単なる学者ではなくて、活動家でもあったことが分かる。

自ら戦争を体験してきた彼の言葉は半世紀経った現在にこそ、われわれの目を覚まさせる力を持っている。

彼はベトナム戦争を行っているアメリカを目の当たりにしながら軍隊に関して次のように述べている。


 なにをもって「軍隊」と呼ぶかの定義は、明確にはできません。軍隊とは、軍事産業と政府と組んだ一つの有機体です。また「産軍複合体」とは、それを支える国民の生き血を栄養とし、その労働の成果を生産的な活動から、非生産的な冒険へと転移させる、不即不離の結合体なのです。

 この肥大化は危険です。というのは、産軍複合体がある限度をこえると、文官政府の僕【しもべ】たることをやめ、その主人になってしまうからです。国の対外政策や資源の配分方法を指図し、国民所得の大きな部分を呑みこみ、さらにはより高次の努力をねじまげ、芸術、科学、人道的な組織を衰退させてしまいます[前掲書 32p]。


この巨大な産軍複合体と化したアメリカと平和憲法を超えた実践的な軍事同盟を結び、自ら産軍複合体の国家に戻ろうとしているのが高市総理の日本政府だろう。

やはり巨大な産軍複合体と化した中国を牽制した発言で、何とか親交を維持してきた関係をこじらせてしまったわけだ。

特に打撃を被ったのは観光や芸術・科学分野の交流であり、それが組織の衰退を招こうとしている。


博士は当時の米ソ対立の中で平和に関する鋭い洞察を述べている。


実はといえば、この二大超大国の軍隊こそ、こよなき同盟者なのです。ソ連の軍隊がなければ、アメリカの軍隊も不要ですし、アメリカの軍隊がなければ、ソ連の軍隊も不要です。しかもそうなれば、現在は国防総省に向けられている両国市民の汗の結晶は、もう流れてこなくなります。そこで、両国の巨大な軍隊は力をあわせ、お互いへの敵意と恐怖とがなくならないようにしむけ、平和の「勃発」を防いでいるのです[前掲書 34p~35p]。


これは現在の米中関係にも当てはまることだろう。

今アメリカが一番懼れているのは、日中・日朝関係が良くなってアジアに平和が訪れて、アメリカの軍隊を必要としないことだ。

しかし、既に中国自体がアメリカの脅威が無ければ軍隊を維持できない国家になってしまっているので、アメリカの懼れる平和の「勃発」は当面なさそうだ。

中国が懼れているのは、せっかくアメリカの縛りによって日本が巨大な産軍複合体に戻ることを阻止できていたのに、台湾問題を理由としてその縛りを無くそうとしていることだ。

高市総理は明らかに日本の産軍複合体を復活させようとしているのだから、中国と冷戦関係になるのは都合が良いから国会発言は怪我の功名というところだろう。

アメリカは日本の核兵器開発さえさせなければ、自民党の傀儡政権を温存させて日本を自由に操れると思っているだろう。

特に高市総理は原子力空母の上で浮かれて手を振りながらクルリしているくらいだから、チョロい者だと思われているのかもしれない。

日本はアジア太平洋戦争で戦争の愚かさを学んで、世界で初めて「狂ったサル」から正気になりかけたのだが、また完全に戻ろうとしている。

今、狂っているのは日本なのか?アメリカなのか?中国なのか?台湾なのか?ロシアなのか?ウクライナなのか?

セント=ジェルジ博士の言うとおり人類なのか?




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