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2019年5月1日水曜日

曜変天目茶碗と鳥獣戯画

平成最後の日、家内と電車に乗って出かけた。
当初の目的は、大阪の香雪美術館で「鳥獣戯画」と「明恵」の特別展を観る予定だった。
家内はこのために「朝日友の会」に入会して、招待券を一枚手に入れていたからである。
そして前もって日にちを決めて、家内は「春の関西1デイパス」を買ってくれていた。
これがあると、つい欲が出て遠くへ足を伸ばしてしまう。
今回も、早く家を出ることが出来たので、奈良まで行くことにした。
奈良では国立博物館で「藤田美術館展」が開かれ、特に「曜変天目茶碗」を家内は観たがっていた。
私は、学芸員の資格を持っていながら、あまり博物館や美術館には足を運ばなかった。
最近は家内と出かける目的が、美術館や博物館に行くということが多くなった。
夫婦によっては、一緒に宝塚歌劇やコンサートを観に行く人もいる。
残念ながら、私と家内とは演劇や音楽では趣向がかなり違う。
趣向を何とか合わせられるのが、美術品や歴史的展示物ということなのである。

大阪から大和路快速に乗ると、車内は国際色豊かになった。
前の席には白人の女性と男性が座ることになった。
隣の席でも、ラテン系の男女が4~5人、賑やかに話している。
欧米の人たちの独特の香水の匂いが、車内いっぱいに充満していた。
奈良駅に11時半に着いて、少し早いが、まずは昼ご飯を食べることにした。
この選択は正解であったことを、後に分かった。
せっかく奈良まで来て、奈良の名物を食べれば良いのだが、前回同様の駅にある和食チェーン店で定食を食べた。
バスに乗って博物館まで向かったのだが、途中で道が渋滞して動かなくなった。
会場までは遠くないので、一つ前の停留所で降りて歩いた。
時間からすれば、もう一つ前の停留所で降りた方が良かったように思う。

博物館の二階の展示場に入ってまず驚いた。
すごい列が出来ている。
曜変天目茶碗を最前列で観るための列なのである。
最前列で観るためには一時間ほどかかるという。
大阪に戻って、香雪美術館に行こうと思っていたので、最初は諦めた。
しかし、展示物をざっと見終えると、やはりせっかくここまで来たのだからと思い、並ぶことにした。
最前列でないなら人越しに観ることも出来るが、背の低い家内には見えそうにないと思ったののも大きな理由である。
家内は済まなそうに言ったが、自分としてもこの機会にしっかりと観ておきたかった。
一時間も並んで観た茶碗は、期待が大きかっただけに少しがっかりした。
思った程の輝きや色を見せてくれるものでは無かったからである。
ただ、画像や映像ではなく、実物を間近に見ることそのものに価値があるのだろう。

そもそも、この茶碗は家康が水戸徳川家に授けて、それを後に藤田平太郎が手に入れたものだという。
藤田平太郎の父親伝三郎は、元長州の商人で児島湾干拓でも有名である。
閑谷学校に勤めていた頃、藤田中学校が宿泊研修に来たが、その藤田は彼に因んだものであるという。
親子とも実業家で、美術収集家であった。
茶碗が時の権力者や富豪の手に移り、その展示を庶民が高い拝観料で一時間も並んで観る。
そういえば、去年行われた村のご開帳でも、村人は高い寄付金を要求され、たまたま隣保長にあたった我が家は奉仕を求められた。
ご開帳される仏像が、寄付による寺の修理を可能にした。
それと同じように、この茶碗は藤田美術館の改築にどれだけ役に立つのだろう。
庶民にとって、仏像も茶碗もありがたいものを、身銭を切って拝むということで同じだと思うと滑稽で愉快に思えた。
ただ違うのは、その価値を与えるのは、一方では権力と富と結びついた美意識、一方では土地のしがらみに結びついた信仰心である。

思わぬ時間がかかったので、拝観はそこそこにして、バスに乗り込み駅に向かった。
帰りはさすがに渋滞は無かった。
電車もうまく快速に乗り込めて、大阪に向かった。
途中乗り込んできた若い女性二人が韓国語を話していたので、まだ観光地にいる気分だった。
香雪美術館は駅から歩いて12分というので、時間は問題ないと思っていた。
ところが、家内のスマホに頼った道順がよく分からなくなってしまった。
前もって地図であたりの様子を調べておくべきだった。
色々人から教わって、結局たどり着いた時は、4時半で閉館30分前になってしまっていた。
急いでざっと観た後、もう一度じっくりと鳥獣戯画を眺めた。
テレビの特集で観てはいたのだが、実物を観ると生き生きと感じて面白い。
映像では感じられない、描いた人の筆遣いが伝わってくるからだろう。
明恵の絵にしろ、書にしろ、実物にはその人の息づかいが、時間を越えて伝わってくる。
自分はデジタル画像やパソコンなどで表現しているが、もう一度アナログでの表現の価値を見直した。

帰りの新快速はドアの前の補助席に姫路まで座ることになった。
座れるだけましなのだが、もう少しゆったりと旅を楽しめないものかと思った。
せっかく心を豊かにしてくれる工芸品や美術品を鑑賞しながら、旅そのものは通勤とかわりがない。
旅そのものが楽しめるようにするためには、上郡は「特急はくと」も使える。
それには午前中、特に車中で催す尿意対策に一番有効な決め手なのである。
次回から大阪より遠くに旅する時には、特急を使うことを家内に切に訴えた。
特急料金は心を豊かにする必要経費なのであると私は思う・・・










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